過去の有識者ダイアログ

2021年度の有識者ダイアログ(2021年8月17日)

ファシリテーター
CSRアジア 日本代表
赤羽 真紀子氏

2021年8月17日、有識者ダイアログを開催いたしました。3名の有識者の方々から、日本郵政グループの主な取り組みに対する評価や、今後の課題、当社グループへの期待・要請などについて、さまざまなご意見・ご提言をいただきました。

※新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、オンラインにて実施いたしました。

有識者コメント

日本サステナブル投資フォーラム
会長
荒井 勝 氏

日本郵政グループ中期経営計画でESGの非財務目標を掲げたことは、非常に良いと思います。カーボンニュートラルについては目標を掲げるだけでなく、日本郵政グループという巨大な企業群の取り組みとして、また地域社会に結びついた組織として、EV拡大における電力不足の問題など具体的な課題について政府等に発信し、ぜひ国の政策を後押ししていただきたいと思います。ゆうちょ銀行の金融教育補助教材にサステナブルな視点を加えられたことも、次世代に向けた重要な取り組みだと考えます。
世界的に重要な課題である「ビジネスと人権」についても検討が必要です。わが国の「ビジネスと人権に関する行動計画」を参考にして、課題を十分に認識して取り組んでいただきたいと思います。
サステナビリティ委員会の設置は、これまでのCSRという観点から大きく一歩進み、現在世界的に認識されているサステナビリティに取り組むきっかけになると思います。サステナビリティ経営の重要性を上層部がしっかりと理解して推進することが第一の課題です。深掘りした議論展開を期待しています。次のステップは社員への徹底です。本社・支社、さらに各現場でサステナビリティに取り組むことが重要です。日本郵政グループという巨大な組織では、事業部門ごとに仕事がかなり異なるため、「自分たちは関係ない」と受け取られがちで、社内浸透は難しい課題です。グループ方針を本社がはっきりと打ち出し、メッセージを外部や組織全体に伝えることが重要になります。取り組みを深堀し、見せ方も工夫して具体性のある情報を発信されるとよいと思います。
長期ビジョンや風土改革などが、先進企業と比べてまだ遅れている印象です。評価機関の評価への対応も含め、より改善に向け取り組んでいただきたい。今は本格的な第一歩が始まったところだと思いますので、どこまで進展するか来年(2022年)に期待したいと思います。

明治大学経営学部
特任教授
関 正雄 氏

日本郵政グループが目指す方向に賛同します。「人生100年時代の一生を支える」も良いコンセプトですし、郵便局の充電インフラを地域に開放する計画も非常に良いアイデアだと思います。日本郵政グループは大きな社会的影響力を持ちますので、その影響力を、ぜひ社会を動かす力に活用してください。例えば、CSV的な考えからSDGsをビジネスチャンスとして捉える話もありますが、一方で社会に対するポジティブインパクトだけでなく、ネガティブインパクトに対する責任(ガバナンス、人権、労働問題など)も極めて重要です。具体的にはISO26000の7つの中核主題などを踏まえて取り組んでいただきたい。そのうえで、政府の方針や社会全体の水準に合わせるのではなく、むしろ日本郵政グループが社会におけるニーズを喚起し、市場にインパクトを与え、トランスフォーメーションを引き起こしていただければと思います。
また、気候変動への取り組みがずいぶん進みましたが、現在、気候変動と並んで多くのステークホルダーが注目するのが生物多様性です。これについても今後、経営の中に組み込んで取り組む必要があります。その他、地域に幅広いネットワークを持つ企業グループとして、認知症問題、空き家問題、災害対策にもぜひ積極的に取り組んでいただければと思います。
ESG目標については、人権デューデリジェンス、持続可能な調達など、社会面がまだ不十分という印象です。特に人権デューデリジェンスの実施は「待った無し」の状態ですので、PDCAサイクルに組み込んで、しっかり取り組む必要があります。また、ダイバーシティの中でも障がい者や外国人の方を含めた、誰一人取り残さない金融サービスFinancial Inclusionを大事にして展開してほしいと思います。
社員への理解・浸透は多くの企業の課題です。対外的な広報は、SDGsウォッシュの懸念を招かないように、意味のある情報発信をしていかなければなりません。そのためにも、社会に対するインパクト、アウトカムを発信することが重要です。社内広報にも力を入れるとともに、例えば長期ビジョンづくりにおいて若手社員を巻き込むなど、社員参加のプロセスを検討されるとよいと思います。

※CSV:Creating Shared Value=共通価値の創造(企業が、社会ニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されるということ)

サステナビリティ消費者会議
代表
古谷 由紀子 氏

日本郵政グループの中期経営計画で掲げている「共創プラットフォーム」は非常に良い取り組みです。お客さまも参画するような取り組みにすることで、持続可能な社会の実現に貢献できると思います。サステナビリティへの意欲的な取り組みがなされているなという印象を持った一方で、社会の動きにキャッチアップしている段階であり、また具体化に欠けている面もある印象です。今この時期に、基本的な考え方や方針をしっかり持つことは、今後の進展に重要です。
CSR委員会からサステナビリティ委員会へ改組されましたが、コーポレートガバナンス・コードの改訂などの動向に照らし合わせると、サステナビリティ委員会に社外メンバーがいないなど、まだ検討の余地があると思います。社会の動きが早く、内部だけでは十分な検討ができない面もありますので、社外メンバーの追加をぜひご検討いただきたいと思います。
「お客さま本位」については、その大前提としてお客さまをどのように捉えるか、どのような課題をお客さまが抱えているのかをしっかり認識しないと、上滑りなお客さま本位になってしまいます。お客さまが災害や認知症などのリスクを抱えている状況に対して、日本郵政グループとして何ができるか、何をするべきかという観点から、仕組みや取り組みにつなげることが大事です。関連して、営業目標や人事評価の見直しをされましたが、「お客さまをどのように捉えるのか」という職員の認識改革も重要となるでしょう。
ダイバーシティについては、「ビジネスと人権に関する指導原則」などを参考にしながら、個人の尊重、多様性などをベースに構築していくことが本質的な解決につながります。
デジタル化が進む中、消費者はデジタル社会における人権の問題や、デジタル・ディバイドなどの課題を抱えています。営業やマーケティングなど事業活動をする中で、ぜひ消費者の啓発についても進めていただければと思います。
また、大きな不祥事の後、いくつか不祥事があったということで、社外認識は不祥事が続いていており、きちんと対処されていない印象があります。不祥事の情報発信について、考え方や取り組みについて積極性をもって明確に発信するよう工夫する必要があると感じました。

有識者コメントを受けて日本郵政グループ出席者コメント

日本郵政株式会社
サステナビリティ推進室 室長
關 祥之

中期経営計画「JP ビジョン2025」に今回初めてESG目標を組み込むことができたことや、サステナビリティ委員会といった推進体制の整備については、スタートラインに立てたとの評価をいただけたかと思います。今後は、いただいたご意見を真摯に受け止め、各取り組みを早急に具体化させていきたいと思っております。また、社会的な認識と社内の認識にまだまだギャップがある点についても、早急に埋めていきたいと思います。
対応すべき課題は多くありますが、サステナビリティやESGの取り組みに限らず、これまで課題意識が組織内から沸き上がるようなことは少なかったように思います。今後は、新たな課題について自ら声を上げ積極的に取り組む人材を支援する仕組みづくりや組織風土づくりについても、試行錯誤になるとは思いますが、進めてまいりたいと思っております。
引き続きご指導・ご鞭撻いただきますよう、お願い申し上げます。

日本郵便株式会社
執行役員
小川 真郷

2021年度よりCSR委員会からサステナビリティ委員会へ改組し、新中期経営計画にも今回初めてESG目標を設定したことで、サステナビリティを経営に取り込む点で一歩前進したと考えています。
一方、ビジネスと人権やサプライチェーン、気候変動への対応等、さまざまなご提言をいただきましたが、今後サステナビリティ経営を推進するためには、方針やガイドラインを定めるだけでなく、踏み込んでより実効的に取り組んでいく必要があると改めて認識いたしました。
いただいたご提言を受け、日本郵便では、全国の郵便局ネットワークを活かしたユニバーサルサービスの提供、信頼回復に向けた業務運営を前提に、当グループ各社と連携し、また共創プラットフォームの枠組みの中、当グループ外の多様な企業等と連携を行うことで、デジタル化や高齢化、気候変動等のさまざまな課題の解決に貢献してまいります。

株式会社ゆうちょ銀行
専務執行役
矢野 晴巳

ゆうちょ銀行は、2021年5月に中期経営計画を発表し、事業活動を通じて社会課題解決と企業価値向上の両立に取り組むESG経営をその中核に据えました。計画策定にあたっては、当行のパーパスや経営理念に立ち返り、ゆうちょ銀行として果たすべきミッションを明確にいたしました。
全国の幅広いお客さまに、金融ユニバーサルサービスをはじめ各種金融サービスをあまねく提供してきた当行の事業活動は、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念との親和性が高いと考えます。
中期経営計画では、金融サービスのデジタル化という大きな流れの中で、「誰一人取り残さない」という理念の下、全国の店舗ネットワークとの相互補完を通じて、すべてのお客さまに安心・安全なデジタルサービスを提供する新しいビジネスモデルの構築に挑戦する戦略を打ち出しました。
役職員一人ひとりがESG経営の考え方を共有し、日々の業務に活かしていくことが大切であるというご意見をしっかり受け止め、中期経営計画のもと、ステークホルダーとの信頼を深め、金融革新に挑戦してまいります。

株式会社かんぽ生命保険
常務執行役
宮西 嘉樹

SDGsに向けた取り組みは、お客さまに選ばれ、投資家に認められることで存続しうる企業としては、「当たり前に取り組むこと」、ある意味、「普遍的な価値」であり、SDGsに我が事として正面から取り組むことが、社会から承認を得るための必要条件であると思います。こうした観点から、SDGsに向けた方針を明確にするとともに 、経営資源の最適配分と実効性の高い計画を策定し、着実に取り組むことが重要であると言えます。そしてもっとも大切なことは、こうした企業の考え方が、社員一人ひとりの意識と行動に浸透し、日常の発信や行動が変化し、消費者やお客さま、投資家の皆さんに適切に伝わることだと思います。一人ひとりの社員の意識・心に灯をつける挑戦が実態のある取り組みにつながり、持続的な企業価値の向上、さらには社員一人ひとりの働きがいや幸せにつながると考えています。これからもぶれることなく、SDGsの解決に向けて誠実に取り組んでいきたいと決意を新たにしたところです。

2020年度の有識者ダイアログ(2020年9月1日)

ファシリテーター
CSRアジア 日本代表
赤羽 真紀子氏

2020年9月1日、有識者ダイアログを開催いたしました。3名の有識者の方々から、当社グループの主な取り組みに対する評価や、今後の課題、当社グループへの期待・要請などについて、さまざまなご意見・ご提言をいただきました。

注 新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、オンラインにて実施いたしました。

有識者コメント

日本サステナブル投資フォーラム
会長
荒井 勝 氏

まず、かんぽ商品の募集に係る問題の原因分析と取り組みについて、統合報告書でかなりのページ数を割いて報告されていることを評価したいと思います。お客さまの声の活用や社員の教育など、きちんと取り組んでいただき、今後それを具体的に開示していくことが重要です。
今後、日本企業の取締役の在り方やガバナンスは欧米流に変わっていくと思われます。欧米では社外取締役は執行役に対する監督を担っており、海外の投資家から日本の会社に対しては、業務の執行と監督をしっかりと分けるべきという意見が強まっています。日本のコーポレートガバナンスコードも、これを踏まえて改定されていくと思いますので、日本郵政グループも将来に向けたガバナンスの在り方を検討されるべきだと思います。
またESG関連の外部評価機関への対応は、今後もかなりの努力が必要です。取り組むことはもちろん、開示しなければ評価されないことを十分に意識してください。
最後に、地域と密着型の事業は他の金融機関にはできないことです。日本郵政グループの強みを活かした取り組みをどんどん進めていただきたいと思います。

明治大学経営学部
特任教授
関 正雄 氏

日本郵政グループは既に人権や調達に関する方針を示していますが、今後はもう一歩進んでPDCAサイクルを回す仕組みを定着させることが必要です。ビジネスと人権について、方針に基づいて具体的な取り組み・目標を決め、人権侵害が起こらぬようマネジメントし、開示していただきたいと思います。
調達についても同様です。事業規模からみても、膨大なサプライチェーンを持っているので、その中での環境や社会への配慮は非常に大きなインパクトを持ちます。ぜひ同じようにPDCAサイクルを回して具体的に取り組んでいただき、結果を透明性高く開示していただきたいと思います。
TCFD対応については、これからの社会がどのように変化するのか、何が必要なのか等のシナリオを超長期的に描いたうえで、自社の競争力につながる意欲的な目標、戦略を打ち出してください。

サステナビリティ消費者会議
代表
古谷 由紀子 氏

企業理念や行動憲章を社内で浸透させていくうえでは、社員の個々の業務に結びつけて実践できる形で取り組んでいただきたいですね。
「お客さま本位」は抽象的な概念ですので、基準化・仕組みなど具体化して、経営に活かしていただきたいと思います。今回の「消費生活相談員によるかんぽ生命保険等電話相談窓口」をきっかけに、声を聞くだけでなく、消費者・お客さまの実態に目を向け、企業として何をすることが「お客さま本位」になるのかを社内で議論し、具体化につなげてほしいと思います。
また、多彩な内容を取り組まれていますが、「消費者の安全・安心」の位置づけが弱いと思います。本来の業務の根幹となる部分であるため、企業価値の向上という場合には業務の中にしっかり位置づけ、明示することが重要です。

有識者コメントを受けて

日本郵政株式会社
常務執行役
木下 範子

昨年のダイアログを振り返りますと、ガバナンス体制、教育、消費者の安全、ステークホルダーとの対話など、非常に重要なご提言をいただいたと改めて感じます。
今回も、ビジネスと人権、調達、消費者の安全・安心、ガバナンス体制など、注力・改善すべき点を多数ご指摘いただきました。これまで、考え方・方針を示してきたことや、既に取り組んでいる内容も含めて、もう一歩踏みこんでしっかり検討していかなければならないと意を新たにしております。
特にお客さまをはじめとするステークホルダーの声の経営への活用は、今後、私たちの姿勢、そして実効性がますます問われることになると思います。
今回いただいたご意見・ご提言も踏まえながら、信頼回復に向けた業務運営を推進してまいります。

2019年度の有識者ダイアログ(2019年8月20日)

ファシリテーター
CSRアジア 日本代表
赤羽 真紀子氏

2019年8月20日、3名の有識者をお招きし、有識者ダイアログを開催しました。
昨年のダイアログで頂戴したご助言を踏まえて当社グループが実践した主な取り組みや、日本郵政グループに求められていること、今後目指すべき姿などについて、さまざまなご意見・ご提言をいただきました。

有識者コメント

明治大学経営学部
特任教授
関 正雄 氏

もはや気候変動に関しては、非常事態であるという認識を持たなければいけません。温室効果ガス削減目標について日本政府の削減水準を基準にするのではなく、自社でもっと高い目標を掲げるべきです。そして電気自動車(EV)の導入で日本をリードするとともに、ドローンの活用や自動運転など、新技術導入にもぜひ本腰を入れていただきたいですね。また、この度のかんぽ生命の契約の乗換等に係る事案は、もう一度日本郵政グループという企業の存在意義や社会的責任について考え直すチャンスでもあると思います。ボトムアップで現場の人たちの意見を吸い上げ、全員で議論することをお勧めします。そして幅広いステークホルダーと対話し、それを文化として根付かせることができれば、会社を変えるきっかけとなるはずです。

日本サステナブル投資フォーラム
会長
荒井 勝 氏

昨年課題として指摘した点も含めて、対応状況はかなり進んでいますね。しかし、近年では、気候変動は中長期的に見れば企業にとっての財務リスクにもつながると考えられていますから、その点が経営の判断や経営方針へ組み込まれていないと大きなマイナスとなります。また、日本の金融教育にはSDGsやESGが絡められておらず、自身の事業でリターンを得ながら世の中の役に立つサービスや製品を生み出す資金の流れを作るのが金融の本質であるという点が抜け落ちています。ゆうちょ銀行には、従業員に対する教育も含め、率先してそういった金融教育に取り組んでいただきたいと思います。かんぽ生命の契約の乗換等に係る事案については、取締役会の監督機能をさらに強化していく必要性がありますね。来年の報告書では、取締役会の在り方やチェック体制がどのように変化したのか、どのような対応をとったのかについて詳細に報告すべきでしょう。

サステナビリティ消費者会議
代表
古谷 由紀子 氏

人権方針や調達ガイドラインを策定されるなど着々と取り組まれているのは素晴らしいと思います。さらに日本郵政グループのバリューチェーンの中にどのような課題があるのかを具体的に示すとよいでしょう。また、公正な取引や消費者の安全はSDGsの目標に掲げられてはいませんが、持続可能な社会づくりの基本ともいえます。今回のかんぽ生命の契約の乗換等に係る事案を受けて、こうした基本的な課題についてしっかり押さえていく必要があるのではないでしょうか。持続可能な社会に向けて企業が何に取り組むべきかについては、組織の社会的責任に関する国際規格ISO26000を参考にされるとよいでしょう。加えて従業員にこそESD(※注)が必要だと考えます。経済や金融分野のESDとして、ぜひ従業員そして消費者への金融教育を推進していただきたいですね。

※注 ESD
Education for Sustainable Development(持続可能な開発のための教育)。

有識者コメントを受けて

日本郵政株式会社
常務執行役
木下 範子

これまで取り組んできた部分をしっかりとブラッシュアップして、次のフェーズへ踏み込んでいく必要があるのだと身が引き締まる思いです。特に環境問題に対する取り組みを加速しなければならないという思いを強くしました。世の中の動きをしっかりと捉え、各種のリスクや社会課題を経営・戦略に結びつけながら、そしてお客さまからの信頼が事業にとって最も重要であるということをもう一度胸に刻みながら、CSRに取り組んでまいりたいと思います。

2018年度の有識者ダイアログ(2018年8月28日実施)

2018年8月28日、3名の有識者をお招きし、有識者ダイアログを開催しました。
昨年のダイアログで頂戴したご助言を踏まえ、当社グループが実践した主な取り組みについて、また今後目指すべき姿について、様々なご意見・ご提言をいただきました。

有識者コメント

明治大学経営学部 特任教授 関 正雄 氏
近年、過去を振り返っての実績の開示に加えて、将来に対してどのような戦略を描いているのかが問われるようになっています。バックキャスティング(注1)による戦略と、そのリスクと機会の開示も心掛けることが大切です。また、「人」については、グループ内だけでなく、事業活動にかかわるすべての人の人権まで視野を広げる必要があると思います。規模の大きい日本郵政グループは社会的なインパクトも大きい。ぜひ他社が見習うモデルになっていただきたいですね。

注1 バックキャスティング
未来のある時点に目標を設定し、そこから振り返って現在すべきことを考える方法

日本サステナブル投資フォーラム 会長 荒井 勝 氏
新たなCSR基本方針が分かりやすくなった半面、投資家にとって重要な要素である生産性向上、企業価値創造、適時適切な開示の推進、コンプライアンスおよび内部統制の確保について明言されていないのが気になります。また、環境の負荷低減については、CDP(注2)がグローバルスタンダードとなっていますので、投資家の期待を満たすためにも、CDPの質問に回答なさることをおすすめします。

注2 CDP
気候変動等に関する情報開示を企業に要請し、その調査結果を報告しているイギリスのNPO

サスティナビリティ消費者会議 代表 古谷 由紀子 氏
社会課題に対する認識と取り組みとを連動した見せ方にする必要があります。例えば、正社員・非正規社員数など雇用データを開示されていますが、人権や格差という問題を踏まえてこそ、このデータは生きるわけです。自社グループが社会・環境に与えるプラス/マイナス両面の影響とともに、目指す社会に向けて何をしなければいけないのかという視点が重要です。

有識者コメントを受けて

日本郵政株式会社
執行役
木下 範子

前回のダイアログで頂戴したアドバイスを踏まえ、昨年は「CSR基本方針の見直し」「重点課題の設定」「情報開示の拡充」を進めてまいりましたが、まだまだ多くの課題があることを痛感しております。ステークホルダーの皆さまとの対話を重ねながら、当社グループならではのCSRをより一層ブラッシュアップしてまいります。

2017年度の有識者ダイアログ(2017年8月30日実施)

2017年8月30日、3名の有識者をお招きし、有識者ダイアログ(有識者懇談会)を開催しました。
有識者の方々からは、日本郵政グループのCSRが目指すべき方向性や改善すべき課題などを中心に、当グループの経営環境を取り巻く国内外の変化や、ステークホルダーの視点など、幅広い見地からご意見をいただきました。

有識者コメント

明治大学経営学部 特任准教授 関 正雄 氏
今、世界中の企業が「SDGs(持続可能な開発目標)」に取り組んでおり、日本郵政グループもまた、SDGsを経営に組み込んだ、持続可能な社会に向けた取り組みが求められています。日本郵政グループほど大規模で影響力のある組織は、それだけ求められる社会的責任のレベルや、ステークホルダーからの期待も大きくなります。例えば、2017年には持続可能な調達に関する企画、「ISO20400」も発行されました。ぜひ環境や社会に配慮した調達にも、率先して取り組んでほしいと思います。

日本サステナブル投資フォーラム 会長 荒井 勝 氏
一般的にこれまで日本企業のCSRには投資家視点が欠けていましたが、近年、日本でも公的年金基金(GPIF)の国連責任投資原則への署名後、ESG投資の取り組みが急速に進んでいます。日本郵政グループも投資家視点を意識した取り組みを推進し、例えば環境関連でいえばCDPの質問書への回答などをされるとよいと思います。また、情報開示はデータの積み上げが大事なので、今後5年間のデータ推移を開示できるとよいかと思います。

サスティナビリティ消費者会議 代表 古谷 由紀子 氏
日本郵政グループが、地域などにおける社会課題をどのように認識し、その解決に向けてどのように取り組むか、ステークホルダーに対して何を行うかを明示することが必要だと思います。また、情報の開示においては、自社に都合の良いデータばかりを開示するのではなく、率直に、自社に都合の悪いデータも含めて開示していくことが、ステークホルダーからの信頼の獲得につながります。

関連情報