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TCFD提言への対応(郵便・物流事業及び郵便局窓口事業)

郵便・物流事業及び郵便局窓口事業におけるシナリオ分析

分析の範囲

シナリオ 物理的リスク:IPCC RCP1.9(1.5℃シナリオ)・RCP2.6(2℃シナリオ)・RCP8.5(4℃シナリオ)
移行リスク:IEA WEO NZE 2050(1.5℃シナリオ)・WEO STEPS(2.5℃-4℃シナリオ)
対象事業 郵便・物流事業及び郵便局窓口事業
対象期間 2030年・2050年

シナリオの定義

産業革命前と比べて今世紀末の気温上昇を1.5℃以下に抑えるシナリオと、産業革命前と比べて今世紀末の気温上昇が4℃を超えるシナリオ※を想定して、郵便・物流事業及び郵便局窓口事業への影響を分析しました。

  • 物理的リスクの定量試算に必要なパラメータがRCP1.9 (1.5℃シナリオ)にない場合は、 RCP2.6 (2℃シナリオ)のパラメータを使用しています。

郵便・物流事業及び郵便局窓口事業における影響分析と対応方針

気候変動が郵便・物流事業及び郵便局窓口事業に与えるリスクや機会、1.5℃シナリオ・4℃シナリオのそれぞれの状況下における影響は次のとおりです。

物理的リスク:気候変動によってもたらされる災害等による急性あるいは慢性的な被害
移行リスク:低炭素経済への移行により、例えば政策および規制や、技術開発、市場動向、市場における評価等の変化によってもたらされるリスク

リスク・機会の区分 発生時期見込み※1 財務への影響※2 重要なリスクと機会、想定される影響(シナリオ分析)
物理的
リスク
急性 短期 小~大
  • 短時間強雨の増加により、河川の氾濫、高潮等が発生し、氾濫する河川の流域または高潮が発生する沿岸地域の郵便局舎の一部または全部が崩壊等する可能性があり、その修復にはコスト及び時間を要します。
  • また、局舎の被災や道路等の寸断により事業を継続できないリスクがあり、ユニバーサルサービスの提供に支障をきたすおそれがあるほか、売上が下がる可能性があります。

【1.5℃シナリオ】
大雨が増加することから河川の氾濫、高潮や土砂崩れにより郵便局舎に一定の影響が出ることが予想されます。

【4℃シナリオ】
大雨が大幅に増加することから、1.5℃シナリオの場合よりも広範囲にわたり局舎の崩壊等の影響が出る可能性があります。

慢性 短期 小~中
  • 気候変動により夏場の真夏日や猛暑日が増加することで、屋外での業務に従事する社員の熱中症リスクが高まります。これにより人件費等のコストが増加することとなります。

【1.5℃シナリオ】
年平均気温が上昇すると共に真夏日の年間日数も増加するため、社員の熱中症のリスクが増加することが予想されます。

【4℃シナリオ】
年平均気温が大幅に上昇すると共に真夏日の年間日数も著しく増加するため、社員の熱中症のリスクが大幅に高まることが予想されます。

移行
リスク
政策
・規制
中長期 小~中
  • 温室効果ガスの排出規制が導入・強化された場合、温室効果ガス排出量やエネルギー使用量を削減するための設備・車両の更改や使用する燃料の切り替えなどにかかるコストが増加する可能性があります。
  • また、化石燃料の使用量に応じて炭素税(クレジット購入)が賦課されることにより、コストが増加する可能性があります。

【1.5℃シナリオ】
政府が温室効果ガス排出削減策を取るために、炭素税を課すことを想定します。

【4℃シナリオ】
炭素税が導入される可能性が低いものと思われます。

評判 短期~中期 小~大
  • 投資家から気候変動対策に消極的とみなされた場合、株主総会での取締役の選任や関連議案に対して反対票が投じられたり、日本郵政株式会社が投資を引き上げられる可能性があります。
  • また、顧客の環境への意識が高まり、より環境負荷の低い商品・サービス等が選ばれる一方、環境への配慮が不十分と判断される商品・サービス等については、顧客離れ、ひいては売上の低下につながる可能性があります。
機会      
  • EV用急速充電器の設置を拡大し、地域の皆さまにご利用いただくことや、環境に配慮した配送サービス・商品を開発、提供等することにより、顧客のニーズに応えることで、売り上げが増加する(気候変動を事業機会として活用できる)可能性があります。
  • また、施設設備の改修やEVの導入・拡大等により、炭素税(クレジット購入)が賦課される場合のコストの増加を抑えられる(リスクを回避できる)可能性があります。
  1. ※1 発生時期見込み:短期(~1年程度)・中期(~3年程度)・長期(3年~)で区分しています。
  2. ※2 財務への影響:現時点では、小(10億円未満)・中(10億円以上、100億円未満)・大(100億円以上)を目安としていますが、今後も引き続き定量的な影響の分析を進めてまいります。

財務への影響評価

気候変動リスクが郵便・物流事業及び郵便局窓口事業のポートフォリオに及ぼす影響を把握するため、異常気象の増加に伴う物理的リスクや政策規制の変化に伴う移行リスクを中心にシナリオ分析を実施しました。
物理的リスクによる財務インパクトについては、事業規模、拠点、社員数が現在と同程度であることを前提として、IPCC等で公開されている気象データ、ハザードマップなどを用いて試算しています。
移行リスクによる財務インパクトについても、事業規模が現在と同程度であることを前提として、IEA等で公表されている炭素価格、排出係数、電力価格の予測値から試算しています。炭素価格はIEAの将来予測より2030年は130USD/t、2050年は250USD/tと見込んでいます。

定量化対象項目

今回の財務インパクト試算においては、郵便・物流事業及び郵便局窓口事業で想定されるリスクのうち、IPCC、IEA等の公表データと同事業との相関性が比較的明確な項目として以下を選定し、一定の仮定の下に試算を行いました。
今後、さらなる分析を通して、定量化対象項目の拡大や試算結果の精査等に取り組んでいきます。

物理的リスク
操業・復旧コスト 異常気象に伴う大雨や洪水の被害により操業を停止した場合の損失額と復旧に要するコスト
保険料 異常気象の増加に伴う災害発生率の上昇による物件保険料・人的保険料
屋外作業の生産性低下 猛暑日(35℃以上)の増加により労働生産性が低下した場合の影響額
移行リスク
化石燃料コスト 化石燃料価格の変動による影響額
電気コスト 電力価格の変動や気温上昇に伴う空調稼働率の上昇による影響額
炭素税 炭素税の導入による影響額(Scope1・2)

気候変動リスク・機会による財務インパクト試算結果(2030年/2050年)

コスト増加額  コスト減少額(単位:億円)
区分 影響要因 4℃シナリオ 1.5℃シナリオ
2030年 2050年 2030年 2050年
物理的リスク 操業・復旧コスト 増加 160.1 増加 287.9 増加 75.3 増加 108.6
保険料 増加 15.2 増加 35.8 増加 10.8 増加 14.8
屋外作業の生産性低下 増加 37.5 増加 92.7 増加 18.2 増加 21.8
移行リスク 化石燃料コスト 増加 10.5 増加 24.6 減少 45.2 減少 60.3
電力コスト 増加 31.5 増加 72.6 増加 36.6 増加 94.9
炭素税 0.0 0.0 増加 83.1 増加 69.5
  • 上記の試算は、日本郵便株式会社における郵便・物流事業及び郵便局窓口事業を対象としています。
  • 上記の試算結果は、IPCC/IEA等で公表されている予測データを使用した将来リスクのシミュレーションであり、事業計画ではありません。
  • 前提としているデータに修正・変更があった場合は変動する可能性があり、今後も継続して気候変動が事業ポートフォリオに及ぼす影響を再評価することでリスク把握の強化を図っていきます。

今後の対応方針

気候変動が郵便・物流事業及び郵便局窓口事業のポートフォリオに及ぼす影響の抑制及び新たな収益機会の創出に向けた対応方針は下表のとおりです。今後も、これらの対応方針に基づく具体策の検討・実施を推進していきます。

区分 対応方針 
物理的
リスク
大雨・洪水リスクの可視化とレジリエンス強化
  • 短期的取組:
    • 施設単位のリスクの可視化
    • 被災リスクの高い施設のBCP対策、災害発生時の復旧時間短縮や代替機能の構築、社員の安全確保策等
  • 中長期的取組:
    • 物流ネットワークの再構築、物流施設の集約、移転等
    • 被災リスクを回避・低減するための拠点の移転・新設時におけるハザードマップの活用 等
屋外作業の生産性維持
  • 短期的取組:
    • 既存の事業形態を前提とした緩和策導入計画の策定
  • 中長期的取組:
    • サービス内容や業務の提供方法の見直しによる緩和策の検討
移行
リスク
施設・車両の脱炭素化強化
  • 省エネルギー技術や再生可能エネルギーの導入による温室効果ガス排出の削減
  • 郵便局舎等のZEB化計画の具体化(実現可能性の検討)
  • 郵便・荷物の配達に使用する車両のEV化
    • 2025年度までの5年間で軽四輪車約13,500台、自動二輪車等約28,000台をEVに切り替え
    • 2026年度以降のEV拡大計画の策定(Scope3を含む)
  • 基幹輸送のカーボンニュートラル化
    • より低炭素な輸送モードの組み合わせによるカーボンニュートラル化の推進
    • 技術・コスト等を踏まえながら、より低炭素な車両・燃料への切り替え
    • FCVの社会実装に向けた検証への参画
機会 脱炭素化社会を見据えた収益機会創出
  • 環境品質に関する顧客ニーズについて、営業活動を通じて収集し、社内で共有する仕組みの構築
  • 顧客ニーズを捉えた環境品質の高い商品サービスの開発・拡充
  • 気候変動リスク等の問題点と当社の取組について、営業社員が理解し、荷主に説明できる仕組みの構築
マネジメント 脱炭素化経営マネジメント
  • 商品サービス別の温室効果ガス排出量のモニタリング
  • ICP(インターナルカーボンプライシング)の導入検討
  • 郵便局の魅力を発信するメディア JP CAST 「サステナビリティ」記事一覧