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2017年9月29日 金曜日 日本郵政株式会社 社長会見の内容

2017年9月29日 金曜日 日本郵政株式会社 社長会見の内容

【社長】
私からは3点、簡単にご報告させていただきます。
1点目ですが、9月11日に政府による当社の株式の第2次売出しが決定、公表され、本日までに売出しのプロセスが無事完了いたしました。これにあわせて、当社でも株主への還元を強化するとともに、政府保有株式売却にかかわる株式需給への影響を緩和する観点から、約1,000億円の自己株式を取得いたしました。
 引受証券会社、並びに私どもともに、十分な需要が積み上がったと認識しています。一昨年11月のIPOのときには、3社合計約1.4兆円という規模でしたが、今回は1銘柄のみで約1.3兆円というほとんど前例のない大規模な売出しで、マーケットの環境を損ねることなく、売出株式の全てを円滑に受け渡すことができたと評価しております。
 一部の報道で今回の販売は大変苦戦をしていて、販売説明会でも閑古鳥が鳴いていたというような報道もございましたが、ちょっと印象が違うと思っています。IPOのときには、初めての3社同時上場ということもあって、関心度は非常に熱狂的なものでしたが、今回は、私どもの株は既に上場されており、マーケットも動いていますので、それと比べると、当然ながら販売活動は落ち着いていたように見えるかもしれませんが、証券会社から見ても、既に証券会社に口座を持っている個人の投資家の方々に対しては、ローンチ直後からアプローチを開始しておりまして、主幹事証券が主催した全国5カ所の説明会は全くの新規のお客さま、証券会社に口座を持っていない方々を対象としていたことから、IPO時のような熱気が見えなかったのではないのかなと感じております。国内外の機関投資家に関しても、既に私どものグループに対する理解は深まっており、自然体で評価していただいた結果での需要倍率だと認識しています。報道にあったような、このための特別な売り込みをする必要はもとよりなかったと考えています。
今回の一連のプロセスの中で、国内外の投資家の方々へ説明して回るというロードショーを私どもでもやりました。私自身も海外に行き、投資家の方々といろいろお話をしてまいりました。今回のロードショーを通じて感じたことは、株式上場後2年が過ぎようとしている今でも、日本郵政グループに対する関心と期待が確実に高まっているということです。
 投資家の方々からいろいろご質問がありましたが、私の印象で大きな質問は、「ユニバーサルサービスを完遂しつつも、郵便局ネットワークをどう活用して、日本郵便という子会社をどのように筋肉質な企業にしていくのか」と「ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式売却を今後どのように進めていくのか。そして、その株式売却収入をどのように使うのか」という2点でした。直接対話、議論させていただくことによって、私どもの将来に向けた思いをお伝えするよい機会になったかなと感じています。
2点目です。10月1日で日本郵政グループは民営化10周年になります。民営化10周年を迎えるにあたり、簡単に所感を述べさせていただきます。
 この10年を振り返って、やはり最大のイベントは、2015年11月の株式上場であったと感じています。民営化した時点で、上場は民営化を確たるものとするための所与のものであり、私どもは上場を目標にやってまいりました。一昨年11月に上場を迎えられたことは、国民の皆さまから、あるいは市場からも民間企業として一定の評価を頂戴したと感じています。
 上場の最大の意味は、株主という経営に対する意識の非常に高いステークホルダーが加わったことだと感じています。しっかりとしたガバナンス、透明性、説明責任といったことが更に求められるようになったことで、企業価値を向上させるための一つの登竜門をくぐることができたと感じています。
 超低金利の継続、超高齢化社会の進展、またインターネットの発展とeコマースの飛躍的拡大など、日本郵政グループを取り巻く環境、大変激しく動いております。こうした変化に対して、グループとして柔軟に対応ができていると感じています。
 例えば、ゆうちょ銀行、かんぽ生命ともに、上場後、限度額の引き上げにより、お客さまの利便性が向上いたしましたし、高度なリスク管理態勢と運用体制を確保することもできたことから、運用の高度化、多様化を進めることができました。
 ゆうちょ銀行では、「貯蓄から資産形成へ」という流れの中で、投資信託の販売などで手数料ビジネスを強化いたしました。2年前、ゆうちょ銀行の投信残高は約1.1兆円でございましたけれども、6月末で約1.4兆円まで増えています。また、口座貸越をはじめとする新規業務の認可取得、地域金融機関との連携強化などが挙げられます。
 かんぽ生命でも新規業務の認可を取得し、低金利下でお客さまのニーズに対応した商品開発を機動的に行うとともに、販売の強化や基幹系システムの更改による開発生産性の向上、お客さまサービスの向上と業務効率化に向けたIBMWatsonの導入などがあります。
 日本郵便においても、拡大するeコマースに対応したゆうパックのサービスや料金体系の見直しを行いましたし、海外の機会を捉えるため、トール社を買収しての国際物流事業の拡大に取り組んだほか、不動産開発では、保有する不動産を有効活用するため、「JPタワー」や「KITTE」の開業など、積極的に投資を行ってまいりました。
 ただ、トール社につきましては、当初の予想を超える中国経済、オーストラリア経済の落ち込みと資源価格の大幅な下落等により、業績が急激に悪化し、巨額ののれん等の減損損失を計上いたしました。この件につきましては、経営陣一同、大変重く受けとめております。今回の教訓を生かして、心機一転、損益好転に向けた転機となるよう、あわせて株主・関係者の皆さまからの信頼回復を果せるよう、業績回復に努め、今後もグループ企業価値の向上に努めてまいりたいと考えています。
 世の中の動きは大変早くて、未来永劫安泰と言われる事業はございません。当たり前ですが、10年、20年先を見据えながら、企業としての一層強い成長戦略を描いていくことが急務であると感じております。現在、次期・中期経営計画について、グループ内で議論を進めております。Team JPとして、日本郵政グループ全体の成長戦略を皆さまにお示しできるよう、努力してまいります。
3点目です。先般発表いたしましたゆうパックのサービス改善について、一言だけ申し上げたいと思います。ゆうパックのサービス改善は、お客さまが「身近で差し出し、身近で受け取り」をコンセプトにしており、主要都市部を中心に歩いて5分の範囲で受取可能なアクセスポイントの整備を目指しております。その一環として、イオングループのダイエー、グルメシティの8店舗には、はこぽすを既に設置しておりますが、10月1日からさらに5店舗でのご利用が可能となります。また、本日、この建物の1階ロビーにも設置いたしました。これにより、現在、全国182カ所ではこぽすが利用可能になりました。
 また、本年4月から通販・ECサイトから差し出されるゆうパックを郵便局、コンビニエンスストア、はこぽすで受け取ると、ポイントを付与するキャンペーンを実施していますが、このキャンペーンの期間を来年3月末まで延長するとともに、郵便局で直接受け取る場合のポイントを10ポイント引き上げて、60ポイントに変更いたします。今後も、ゆうパックのご利用が便利でお得になるよう、充実を図ってまいります。
 このほか、本日お配りしています「UGX Amazon FBA相乗り配送サービスの実施」等の発表につきまして、会見終了後に担当が残って説明いたします。
 私からは以上です。
【記者】
民営化から10年となりますけれども、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の完全民営化の時期のめどはどうなっているのかというのが1点目です。
 この2社が強力に支えている状況になっていますけれども、こういう状況というのもいつまでも安泰ではないと思っているのですけれども、こういったグループの収益に依存する状態というのはいつまで続いてしまうのでしょうか。
【社長】
私もロンドン、ボストン、ニューヨークを回って、必ず聞かれる質問なのですけれども、金融2社の経営の自由度を与えるために、時期が来たらやりたいと考えていて、当然、グループ一体経営の状況や、ユニバーサルサービスをちゃんと完遂できるのか、金融2社の業績がどうなっているのかとか、そのときのマーケットの環境いかんということで、いろいろ条件はありますけれども、しかるべき時期が来たら決定したいと思っております。今、ご報告できるような事実はございません。今まで私どもの株式を政府が売却するというプロセスに専念しておりましたので、ここでまずきちんと終了させ、しかるべき時期が来たら決断したいと思っております。タイミングについては、まだお話しできる内容のものはございません。
 ゆうちょ銀行とかんぽ生命の業績にいつまで頼っているのか、いつになったら金融2社を当てにしないでやっていけるのかということですけれども、毎回申し上げていますように、大変ラフに申し上げますと、平均的に日本郵政グループ連結ベースの収益は約8割がゆうちょ銀行、約2割がかんぽ生命の業績で形成されております。日本郵便は大切な拠点で2万4,000局の郵便局ネットワークを持っていますし、ゆうちょ銀行もかんぽ生命もビジネスモデルはこの郵便局ネットワークなしには生きていけない。大事な拠点が日本郵便、大変大事なビークルなのですけれども、業績自体はご承知のとおり、残念ながらまだ心もとないということです。今ただちにゆうちょ銀行、かんぽ生命を頼ることなく、連結ベースで日本郵政グループがきちんとやっていけるというタイミングにございません。
 6月1日には23年ぶりに郵便はがきの料金を52円から10円の値上げをさせていただきました。これで今年度の増収効果は約300億円を見込んでいます。4月25日にはトール社ののれん等の減損損失を発表し、約4,000億円減損したことによって、日本郵便が負担することになっていたのれんの償却、年間約220億円が減少しました。しかし、人件費、あるいはいろいろな経費がかかっておりまして、日本郵便だけではまだちょっと足りないという状況ですので、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の力を借りて郵政グループのパフォーマンスを支えざるを得ない状況がもうしばらく続くと。早く日本郵便を筋肉質な収益力のある企業体に持っていって、郵政グループ全体で隆々とできるようになるべく早く持っていきたいと思っておりますけれども、今しばし時間がかかる状況です。
【記者】
日本郵政の成長戦略についてなんですけれども、復興財源のため政府による追加売却も今後見込まれますが、トールの経営再建や不動産部門のM&Aとか、課題がたくさんございますけれども、現時点で具体的な施策というか、成長戦略、描いているものを教えてください。
【社長】
大向こうがうけるような、打ち出の小づち1本で全部支えられるというような経営ではないと思っておりますので、やれることをあれこれ、たくさんやって、その集合体として結果的にパフォーマンスがよくなるということを目指さざるを得ないと思います。ゆうちょ銀行は融資業務が許されていない業態の銀行でございますので、昨年度の実績で言えば、収益の約94%が運用収益、約6%が手数料収益ですから、これを磨くしかない。運用は、大変な低金利ですから、いろいろ深掘りして、適切なリスク管理の下、オルタナティブ投資、外債等への投資を推進する。
 手数料収益も、先ほど申し上げましたように、日本の投信残高は100兆円ぐらいで、私どものシェアは約1%、約1.1兆円でしたけれども、これが約1.4兆円に増えている。約1,800兆円の個人金融資産のうちの52%が現金・預金、それが約900兆円ございますので、まだまだやれると思っています。
 このほか、約27,500台あるATMの利便性向上、決済サービス拡充等による手数料ビジネスの強化、そういうことをやって、収益を上げていくしかないと思っています。
 かんぽ生命も同様で、保険料等収入が約6割、資産運用収益等が約4割ですので、それをそれぞれ極めていく。日本郵便については、トール社を除いて、大体売り上げ約3兆円、経費が約3兆円ございます。これで利益が100億円、200億円にとどまっているのですけれども、これをそれぞれ磨いていくしかない。売り上げのほうは、大変苦渋の決断ですけれども、はがきを10円上げたり、ゆうパックの料金体系を来年の3月1日からですけれども、上げさせていただいたりということで、売り上げのアップを郵便・物流事業で図っていくことも考えていますし、何回も何回もデリバリーに行かなければいけないということになると、せっかく値上げをして売り上げが増えたのがまた経費で食われてしまいますので、「はこぽす」などの工夫をして、将来的にはあらゆる手を使って経費を落とすこともやっていかなければいけないと思っています。
 物販事業では約1,300億円、不動産事業も約260億円ございます。民営化から始めて、やっとJPタワーなど開業したのですけれども、スピード感を持って、不動産業務等についてもできるものはどんどん売り上げを上げていきたいと思っています。簿価ベースで約2.6兆円の不動産、土地だけで約1.5兆円持っていて、全てが全てすばらしい場所ばかりではありませんけれども、この眠れる資産もまだまだ有効に活用できると思っておりますので、あらゆることに手を尽くして、できれば少しスピードアップして、売り上げを増やす、それから、経費を削るということをやっていきたいと思っています。
 トール社ですけれども、減損し、ことしのテーマは、とにかくファットになっていたトール社を筋肉質にしたいと思っています。トール社自身、10年かけて100個ぐらいのM&Aを実行して、現在の姿になっていたということですので、管理、人事、総務、企画、調達部門を中心に、非常にオーバーラップしている側面がありましたので、これをきちんと整理し、大変残念ですけれども、不必要と思われる人材については人員カットして、筋肉質にするというのがことしのミッションです。
 先般、ご報告しました本部を5から3にする。ビジネスユニット24から11にする。これにつきましては、既に実行済みです。ヘッドカウントも2,000ぐらいあるものをカットしたいと申し上げましたけれども、現状は巡航速度以上に、半分以上のスピードで進んでおりますので、当初狙いどおりの方向で動いております。
 人員カット、組織のスリム化ばかりがやや喧伝されておりますけれども、経費の負担度で言うと、人件費が一番、その次が調達です。これについても非常にいろいろオーバーラップしておりますので、これも向こう3年間でこれだけという目標数字をつくっているのですけれども、もう、その1年分以上を今既に実行してきているということで、確実にトール社を、きちんとした、筋肉質の企業にするというアクションを今、新CEO(会長)、新COO(社長)のもとでやっている最中です。きのう、たまたま私自身も面談して、その報告を受けておりますけれども、それをやっている最中で、トール社もゆくゆくは、きちんと収益の上がる企業にしていきたいと思っています。
【記者】
海外で聞かれたとおっしゃっていた質問の中で、一つお答えがなかったので、金融2社の株を売った金を何に使うのかということなのですけれども、ここを投資に回すなり、何か買収するのか、それとも自社株買いで縮小均衡していくのかというところが大きな注目点だと思うのですけれども、お考えをお聞かせくださいというのが一つです。
 もう一つ、ちょっと率直に10周年ですけれども、現状、民営化、社長が思われている何合目、あるいは何点というところをですね、お聞かせいただけませんでしょうか。
【社長】
今回、私ども、4チームに分かれてアジア、ヨーロッパ、アメリカに行って、ほぼどこのチームも同じような質問、主に先ほど申し上げた2点だったのですけれども、今、おっしゃったそのポイントについては、ゆうちょ銀行、かんぽ生命も時々IRで海外を回っているのですけれども、ちょっとスタンスが違うのは、私どもがお会いした投資家は、日本郵政、持ち株会社の投資家なのです。中にはゆうちょ銀行とかんぽ生命の株をあまり早く売られ、郵政グループの収益が落ちるのは困るというようなことを言う人もいます。ちょっとスタンスが違うところもあるかもしれませんけれども、私どもが言ったのは、有効活用しますと。主に二つしか方法はないと思いますと。
 ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式を売ってお金が入ってきたと。ゆうちょ銀行、かんぽ生命の売り上げ、連結ベースは落ちていくわけですから、このお金を使ってですね、新たにこれをカバーできるようなものに使いたいと。具体的には、必ずしもM&Aである必要はないと思いますけれども、そこを含めた広い意味での前向きの投資をすることによって、株を売って減るであろうゆうちょ銀行、かんぽ生命からの連結ベースの収益をカバーできるようなものに使いたいというのが一つ。
 もう一つは、株主に還元するということですね。その方法論が、配当でいくのか、今回、私どもがしましたように自己株式を取得するのか、いろんな方法論はあると思うのですけれども、株主に相応に報酬を還付すると、二つ潜在的にはありますと、こう申し上げて、率直にいうと、ゴーイングコンサーンの企業として、日本郵政グループが今後やっていくためには、前者のほうが私どもとしては長期的に意味があるので、そちらのほうを先行していますというふうに、どこの投資家にもご回答申し上げました。それが本当の気持ちです。
 ただ、M&Aとか何とかと申し上げていますけれども、やはりトール社の経験を経てですね、やはり相応の価格で、文化も合っていて、やはり私どもにとってこういう機能が増えてよかったよねというような機能を持っている会社を買わなければいけないでしょうから、そんなにいつでもどこでも転がっていて、簡単に買えるということではないと思うのですね。
 時はあたかも今、P/Eレシオがグローバルベースで非常に高くなっていて、アメリカではもう30台ですから。アメリカのP/Eレシオ30台というのは、ITバブルの前の時期とか、1930年の大不況の前のときのレベルなんですね。私どもがいいと思っている企業も大変高い状況にありますので、タイミングもあり、簡単ではないと思うのですけれども、方向感としては、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式の売却収入はそういう方向で有効活用したいと思っています。
 民営化の採点は、立派な業績をきちんと上げてから行いたいと思っています。まだ始まったばかり。10年もたって何だということかもしれませんけれども、やはり郵便事業、官業だったわけですね。政府の一環でやっていて、もうけることを前提にしていない業務を136年間やってきて、今、民営化して10年。これがやはりいろいろなところでコストがついていますので、こういうものも跳ね返していかなければいけないと。まだ十分に跳ね返しきっていないと思っておりますので、富士山1合目、2合目にしかまだ到達していないだろうと思っています。
【記者】
2次売却の話なのですけれども、個人投資家とかシ団の証券会社とかに取材すると、買われ方としては76%を占める個人投資家は、3.6%という配当利回りと政府が大株主であるという安心感、貯蓄代替みたいな感じで買ったようなのですけれども、発行体の社長としてそういう買われ方で本当にいいのか。というのは、やはり成長性という期待から買われるような会社になってほしいのか、それともやはり安心感で引き続きその3次、4次放出もそれでアピールしていくのかというのはどういうふうにお考えでしょうか。
【社長】
バランスですね。私どもが自分で言うのもちょっとつらいのですけれども、ものすごい成長戦略があって、黙っていてもどんどん伸びていくだろうというような業績を実際に数字として示しているのであれば、そういうものなしに株式の売却もできるかもしれませんけれども、残念ながら、特に郵便事業というのがこれから伸びる、よほど料金体系を変えない限り、どんどん伸びていくという宿命にはない企業ですので、どこかでやはりアピールがないと、魅力がないと順調に株式の売却もできないと思うのです。
 いたずらに、配当性向だけで勝負しようとはもちろん思っておりません。けれども、かつて民営化したJR、NTT、JTと比べて、そこは適正的に判断すると、ぱっと見の成長戦略、弱いところもあるので、それをカバーする一つのファクターとして配当性向ということですので、永遠にこれでいいと言い切るつもりもございませんし、いいとも思いませんけれども、今はいろいろなパッケージでバランスを持って株式を売却しているわけで、その中の一つの有力な方法論として配当性向を見ているというのが事実でございますので、当面はこれでいいとも断言できないのですけれども、やむを得ないと感じております。
【記者】
今後のゆうちょ銀行とかんぽ生命の追加での売却に関してなんですけれども、その考え方としてですね、先ほどご紹介いただいた海外の投資家、郵政の投資家の話とも一部関連することかもしれませんが、現在、株価が純資産価値を結構下回っているような状態かと思いますけれども、そういう状態で株式をどんどん売却していくというふうなことに関するお考えといいますか、もちろんその日本郵政の株主にとっては、あまり低い価格で売却されても困るというふうな考え方もあるかと思うのですけれども、一上場会社としてどのように進めていこうとお考えでしょうか。
【社長】
ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式の売却については、私ども自身だけの判断でやれるというプロジェクトではないと思っております。郵政民営化法があって、一つの思想で、ゆうちょ銀行のようなすごく大きい銀行、かんぽ生命のようなすごく大きい生命保険会社がいつまでも政府が後見人にいて、ピュアに民間企業と戦えないというのはおかしいだろうと、同じ土俵に乗ってこいというロジックがあって、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式を売って、ピュアな民間企業にするというロジックがあって、こういうルールに乗っているわけですから、私どもも十分配慮して、金融2社の経営の自由度を与えるために、金融2社が堂々とライバルと戦えるような環境を与えたいと思っておりますので、収益頼っているので絶対離さないというような意識はまずございませんというのが一つです。
 それから、今回の売出しに際して、純資産価値がこんな程度なのによくやるねという報道がありましたけれども、よく見てほしいのですが、今は日本の企業の多くはそのようになっているんです。私どもだけではない、だからいいだろうということは決して申し上げませんけれども、必ずPBRが0.4だの何だのと言われています。上場企業の多くを見ていただきたいのですけれども、ある業種はほとんどがそうなっています。だからいいとは申し上げませんがこれが一つです。
 それから、株式を売る際の判断として、ほかにいろいろな指標があり、例えば、配当利回り。これは先ほど出てきましたけど、配当利回りの議論もある。私どもはこれを魅力に勝負していますから、かなりいいところではあるのですけれども、もう一つ出てくるのは、PERがあります。これは、私ども約14倍あるわけです。もっと低い会社は幾らでもあるんです。いろんな指標があって考えてやっているわけであって、たまたま一番悪いPBRを持ってきて、しかもほかもあるのに、ここだけ0.4だから、何を考えているかというのは、ちょっと偏っていないかと感じております。
 こういう時期でもやらなければならないタイミングも来るかもしれないし、もう少し広い観点から決断をしていくことになると思っております。
【記者】
冒頭に、2次売却が無事うまくいったというお話でしたけれども、今回の2次売却を含めて、国の持ち分が減っていくことというのは、日本郵政の経営ですとか、どういう意味を持っているのかというのをお伺いしたいのですけれども。影響を含めて教えていただけないでしょうか。
【社長】
1年半前のIPOのときに、3社合計で約1.4兆円、日本郵政の株を11%売っていただいて、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式売却収入で自己株式を取得することによって、政府の保有率が80%ぐらいになっていたのが、今度は57%ぐらいになったと思うのですけれども、この差は何かというと、単に政府の比率が落ちたと思っています。
 ただ、まだマジョリティーは政府が持っていますので、当然その辺も斟酌し、私どもはこれから経営判断をしていくことになると思いますけれども、もう一昨年、上場した段階で上場企業としてのトランスペアレンシー、アカウンタビリティー、ガバナンス、コンプライアンス体制を求められておりますので、ちゃんとした上場企業としてやらなければいけないと思っています。
 いろいろなことを言われておりますけれども、上場企業として恥ずかしくない経営をしたいと思っておりまして、80%ぐらいから57%ぐらいまでの差はそんなに本質的な差はないと思っています。株主総会をやって、政府はマジョリティー持っていますから提案の可否を決められる比率ではありますけれども、きちんとした上場企業のパフォーマンス、ガバナンス体制を見せてですね、継続性あるサステイナブルな企業としてやっていきたいと思っていますので、あまり差については、現状はあまり感じていません。仮に政府のほうから何か私どもに株主として注文があったときに、約80%の声と、約57%の声と、少し減るかと思うと、今のところ注文は全然ないんですけれども、あまり感じないのではないかというのが今の印象ですね。
【記者】
それは、3分の1超ぎりぎりまでなってもそんなに変わらないということでしょうか。
【社長】
やはりマジョリティー切ると変わるのではないでしょうかね。あと4兆円を東日本大震災の復興財源に充てたいということで、これで2.8兆円、あと1.2兆円になりました。今後更なる株式売却があれば、少し風景が変わってくるかもしれないと思います。
【記者】
ゆうパックの年末需要の見通しについて伺いたいのですが、ことしは大手宅配便会社が総量規制ということで、荷物を引き受けない状況が続いています。あわせて、日本郵便のゆうパックの推移を見ても、前年同月で2けたの増加で来ていますけれども、10月もそもそも繁忙期の時期で、ましてeコマース事業者、大手EC事業者がセールなんかも開催されますが、年末のゆうパックの需要について懸念材料って何かお持ちではないでしょうか。
【社長】
eコマースが爆発的に増えていて、一昨年14兆円、去年15兆円を超えて、今まださらに増えているということですから、どのぐらい来るのかということにもよりますけれども、現状、日本郵便として労働力の逼迫状況にはなっておりません。ですから、十分こなし得ると思っています。
 少しゆうパックの伸び率が高いのですけれども、これもとりあえず順調にこなしておりますので、今の段階から、年末は絶対問題ないと言い切るほどのまだ根拠はないんですけれども、当面はそういう逼迫した状況にも遭遇せずにやっていけるのではないのかと思っています。
 他社がそういうこともあって、労働需給の問題等、あるいは働き方改革との必要の観点において、一部荷物を抑制するという話があるのですけれども、ディスクローズされている他社の数字を見ると、何千万個も抑制すると言ったわりには増えているんですよね。たまたま伸び率だけで言うと、ゆうパックは伸び率が大きくなっていますが、絶対数で見ると、結構他社もまだ増えているんです。とりあえずこなしていますので、ちょっと他社のことまで言うつもりはないんですけれど、私どもは、特に年末、大変なことになるぞ、どうしようというような捉え方はしておりません。
 もちろん、非常に混んでくるので、いろいろ工夫はしているのです。あれはもう一昨年にマイナンバー配布というのがありまして、10月から始まる予定がちょっとタイミングがずれて11月ぐらいに来だしたのですね。日本郵便が約5,700万通の簡易書留を全部配達したわけです。これは絶対届けなければいけないというので、2回目、3回目、4回目も再配達に行く。あるいは、郵便局の窓口で受け取ってもらうこともした。これと、お歳暮そして年賀状と、この三つが重なると大変なことになるというので、いろいろこのロジスティックス、オペレーションズリサーチの工夫をして、いろいろとやったのですけれども、そういう経験も経ておりますので、当面は十分こなし得るという計算で今準備しております。
【記者】
おそらくは10年前、社長ご自身は日本郵政グループの経営に携わるということは想像もされてなかったと思うのですけども、これまで外からどういうふうに見てきて、それで中に入って2年、3年でどういうふうに印象が変わってきたのか。組織に対するイメージだったり、民営化そのものに対する印象を教えていただきたい。
【社長】
2007年、私はみずほ銀行から富士重工に行っておりましたので、この会社のことを本当に端で見ているだけでしたけれども、ただ、民営化というのは、民でできることは民でと、小泉元首相がおっしゃっていたことはそうだと思います。やはり経済活動ですから、効率的にやってもらおうと思うと、厳しい民のロジックで行ったほうがいいのではないかという一般的な思想はやはりあると思っていたので、ぜひ頑張って、郵政グループいい企業になったよねと思っていたのが、端で見ていた2007年の風景ですけれども、今実際に来てみて、そんなに簡単ではないというのは感じます。
 JR、NTT、JTと不用意に比較するつもりはありませんけれども、ちょっと日本郵便の持っている宿命というか課題がね、ユニバーサルサービスというのが明確にあるわけです。これを実行できないのなら何の意味もないわけですから、これをきちんと実行しながら、かつ、良好な民間企業として成長していくという絵を描くのは、やりがいのある課題だと思います。そんなに簡単ではないと思いますけれども、これはやはり一つのナショナルプロジェクトなので、幸い、こういう立場に来てそういう役割を担ったからには、ぜひ成功させるべく頑張りたいと思っています。
 いつも言っているんですけれど、JRも最初に民営化、地域分割にしたとき、こんなに東日本、東海、西日本が立派な企業になるとみんな思っていたのかどうかですね。清算事業団に25兆円の借り入れを凍結させてどうなってしまうのだろうと思った人がたくさんいたと思うのです。やはりドル箱の新幹線、山手線等のサークルライン、そして持っている不動産を利用してここまでやってこられたと。
 NTTも上場してドコモがこれほどの会社になるとは、NTTデータの情報産業がこれまで伸びるとは思っていなかったのではないかと思うのですけれども、なったと。
 JTも日本ではたばこの消費者はどんどん減っているのですけれども、グローバルにはたばこのスモーカーはまだまだ増えるということで海外に打って出て、大変な金額のM&Aをやってここまで来ているのです。
 やはり、結果論でいろいろな問題があるのですけれど、問題ははっきりしているわけですから、しっかりと対応して経営をやっていくべきだなと思っておりまして、せっかくのナショナルプロジェクト、多分、民営化大型案件はこれが最後になるのではないかと思うのですけれども、きちんと全力で対応していきたいと思っています。
【記者】
金庫株の消却についてのお考えを伺いたいのですけれども、自社株買いをされて、結構たまっているものがあるかと思うのですが、必要に応じて消却していくというふうなお考えなのか、それとも何らかの制約があって難しいことなのか、その辺、ちょっとご意見をお願いいたします。
【社長】
制約はないですけれど、自己株の消却という動きには、すぐにはいかないと思います。
 環境によっては自己株を使ってM&Aの手段にするということもあり得るかもしれませんので、そういう選択肢もちょっと残しておきたいと思っています。
【社長】
どうもありがとうございました。